ELTの炭素価値
タイヤは高い炭素密度を持つ材料である。ゴム、カーボンブラック、各種ポリマーが主体であり、重量の大部分が炭素系物質で構成される。そのため使用済タイヤ(ELT)は長い間「廃棄物」として扱われてきたが、炭素資源として見る整理も現れている。
ELT処理の主要ルートは大きく三つに分かれる。
・焼却(エネルギー回収)
・材料リサイクル(ゴム粉、アスファルト)
・熱分解(rCB、油)
このうち熱分解や材料リサイクルは、バージン材料の製造を回避するため、LCA上はCO₂排出削減として計算される場合がある。
研究例では
・ELT 1t処理
・約1.5〜3tCO₂削減
という評価が多い。
この削減量がカーボンクレジットとして扱われる可能性が議論されている。
つまり
廃タイヤ
→炭素削減プロジェクト
という構図が成立する可能性がある。
1kgあたりの経済価値
カーボンクレジット市場ではCO₂削減量1t単位で取引される。近年の自主市場では価格に幅があり、おおよそ次の範囲が観察される。
・10〜80 USD / tCO₂
これをELT処理に当てはめると次の計算になる。
削減量
・ELT 1kg
・1.5〜3kgCO₂
価格
・1500〜12000円 / tCO₂
結果
・約2〜36円 / kg
ELT 1tでは
・約2000〜36000円
程度の価値となる。
廃棄物処理産業では1kgあたり数円の差が採算を左右することが多い。したがって単価としては巨大ではないが、事業構造には影響を与える可能性がある。
参考として、ELT処理の一般的な価格帯は次の程度である。
・処理費 10〜30円/kg
・リサイクル製品売上 数十円/kg
ここにカーボンクレジットが加わると
・数円〜数十円/kg
の追加収益となる。
この水準は補助的収益ではあるが、利益構造を変える場合がある。
帰属主体
カーボンクレジット制度では、排出削減プロジェクトの主体がクレジットを取得する。ELTの場合、主体になり得るのは次のような事業者である。
・熱分解プラント
・rCB生産企業
・ELT回収会社
・ゴムアスファルト事業者
つまり処理事業者がプロジェクト主体となる構造が基本となる。
一方で契約設計によっては別の整理もあり得る。
・タイヤメーカー
・自動車メーカー
・投資ファンド
などがプロジェクトパートナーとなり、クレジット帰属を共有する形である。
カーボンクレジットの購入主体は主に排出量の多い企業となる。
例
・航空会社
・IT企業
・エネルギー企業
・自動車メーカー
これらはネットゼロ目標やScope3削減の一部としてクレジットを購入する。
したがってELT処理で発生したクレジットは特定産業に限定されるわけではなく、広い市場で取引される可能性がある。
この制度が成立した場合、ELTは従来の廃棄物という位置づけから、炭素削減資源として扱われる可能性がある。処理産業、材料循環、炭素市場の三つが交差する領域として整理されつつある。