タイヤ産業におけるベンチャーの位置
タイヤ産業では完成タイヤメーカーの新規参入は少ない。安全基準、耐久試験、量産設備、OEM採用という制度条件が重なるためである。自動車産業の部品の中でも、タイヤは認証と信頼性試験の要求が特に重い領域に属する。
そのため、ベンチャー企業は完成タイヤそのものではなく、周辺レイヤーから出現する傾向がある。材料、データ、センシング、循環資源など、タイヤに接続する技術領域が主な参入地点になる。
整理すると、世界のタイヤ関連ベンチャーはおおよそ三つの領域に分布している。
・完成タイヤの構造革新
・スマートタイヤと走行データ
・ELT循環材料
完成タイヤ企業は少数、センシングと循環材料が多数という分布になる。
完成タイヤの新規企業
完成タイヤを直接開発する企業は存在するが数は多くない。多くの場合、既存タイヤの延長ではなく、構造そのものを変える方向をとる。
代表的な企業
- SMART Tire(米国)
形状記憶合金を用いたエアレスタイヤ - ENSO(英国)
EV専用タイヤの設計 - reTyre(ノルウェー)
再利用材料を前提にしたタイヤ構造 - Acoustic Innovations(日本)
タイヤ内面の振動吸収層による静粛化
ここでは三つの技術方向が見える。
・エアレス構造
・EV最適化
・機能層追加
従来タイヤの改良ではなく、設計思想の変更として現れている。
スマートタイヤとセンシング
企業数が最も多い領域。タイヤ接地や摩耗をデータとして扱う企業群である。
代表企業
- Tactile Mobility(イスラエル)
車両信号から路面摩擦を推定 - Revvo(米国)
フリート向けタイヤAI管理 - NIRA Dynamics(スウェーデン)
グリップ状態のリアルタイム推定 - BANF(韓国)
タイヤ内部センサー - Anyline(オーストリア)
スマートフォン画像によるトレッド測定
技術方式はさらに分かれる。
- センサー型:タイヤ内部にセンサーを設置
- 推定型:車両信号から路面状態を推定
- 画像解析型:スマートフォンによる摩耗検査
- 通過型検査:車両通過時にタイヤ状態を測定
完成タイヤの開発よりも、車両データを扱うソフトウェア企業の参入が増えている。
循環材料とELT再資源化
もう一つの大きな領域は使用済タイヤ(ELT)の再資源化である。欧州を中心に企業数が急増している。
代表企業
- Black Bear Carbon(オランダ)
再生カーボンブラック - Pyrum Innovations(ドイツ)
熱分解による油・rCB回収 - Bolder Industries(米国)
高機能rCB製造 - Wastefront(ノルウェー)
ELT由来油から燃料生産 - Enviro(スウェーデン)
特許熱分解技術
この分野では、完成タイヤの製造ではなく材料供給として市場に入る。安全認証を直接通過する必要がないため、新規企業の参入が比較的容易になる。
三つの領域を比較すると、タイヤベンチャーの分布は次のようになる。
- 完成タイヤ:企業数は少ない
- スマートタイヤ:企業数が多い
- 循環材料:欧州で急増
タイヤ産業では完成タイヤメーカーの構造は大きく変わっていない。しかし材料循環とデータ領域では新規企業が増え続けている。タイヤそのものではなく、タイヤを取り巻く技術層で変化が進んでいる。