都市内部を横断する鉄道
線形土地という都市資源
地方鉄道は通常、交通インフラとして議論される。しかし都市計画の視点では別の性格を持つ。鉄道は都市の中を連続して横断する土地を形成する。幅は狭いが数キロから十数キロにわたり分断されずに続く。
岳南線の距離は約9km。地方鉄道としては短い部類に入る。都市内部の連続した土地としてみると次の特徴がある。
・連続した細長い土地
・勾配が小さい
・ほぼ直線に近い区間が多い
・交差道路は立体または踏切で整理されている
このような構造は都市緑道とほぼ同じ条件になる。線形公園という都市施設は、歩行者や自転車の通行を前提とする連続空間である。鉄道用地はもともとその条件を満たしている。
鉄道として利用されている間は交通インフラであるが、利用が縮小すると都市の連続空間として再解釈されることになる。
工業地帯という景観条件
インダストリアル景観
岳南線の沿線は住宅地よりも工業地帯の比率が高い。富士市は製紙産業が集中する地域であり、工場設備が都市景観の中心を形成している。
鉄道車窓から見える景観は次のような構成になる。
・煙突
・工場建屋
・倉庫
・物流ヤード
・配管設備
通常の観光資源は歴史建築や自然景観に依存する。しかし近年は工場景観が観光対象として扱われるようになった。夜間照明のある工業地帯は「工場夜景」と呼ばれ、港湾都市などで観光コンテンツとして利用されている。
鉄道用地が歩行空間に転換された場合、この景観は徒歩速度で観察される。車窓景観とは異なり、滞留や散策を前提とした景観体験になる。
工業都市では歴史地区が少ない場合が多い。そのため工業景観そのものが都市の特徴を表す資源になる。
視覚軸としての富士山
遠景と直線空間
岳南線の多くの区間では遠方に富士山が見える。鉄道は建物密度の低い空間を通るため、遠景が視界に入りやすい。
直線的な空間では遠くの対象が強調される。都市景観ではこれを視覚軸と呼ぶ。道路や河川が遠景の山を強調する構造と同じである。
岳南線の空間は次の三要素で構成される。
・直線的な線路空間
・工業設備の前景
・遠景の富士山
視覚構造として整理すると次の関係になる。
前景
工場設備
中景
線路空間
遠景
富士山
この三層構造は都市景観として比較的強い構図を形成する。歩行空間として利用される場合、視点の移動速度が遅くなるため遠景の山が継続的に見える。
鉄道は本来、交通機能のための施設である。しかし都市の土地利用として見ると長距離の連続空間でもある。地方鉄道の利用減少が進む地域では、この連続空間を交通以外の都市用途として再評価する動きが現れている。
岳南線の場合、都市内部の立地、短い距離、工業景観、遠景の山という条件が重なっている。これらは線形公園として解釈した場合に成立しやすい都市条件である。