タイヤゴムコンパウンドの海洋中での生分解性試験結果

2025-05-20

タイヤの摩耗によって発生する粉塵が海洋中に流出し、マイクロプラスチックとなって環境へ影響を及ぼすことが懸念されています。
そこで、タイヤゴムコンパウンドにセルロースナノファイバー、セルロース粒子、生分解性樹脂(PHBH)を添加したゴムについて、生分解性を比較評価しました。

ゴムダンベルの生分解性評価方法

試作したゴムコンパウンドを用いて3号ダンベルを作製し、添付写真にある農業用のPPかごにPPバンドで固定しました。その上で、両サイドにレンガの重りを取り付け、清水港の海水中に沈めて、重量変化および外観の評価を行いました

浸漬前写真
浸漬後写真
浸漬後写真

日時 :2024/8/7 ~ 2025/3/11 7ケ月間

場所: 富士見埠頭岸壁 水域(詳細は以下の地図参照) 〒424-0924 静岡県静岡市清水区清開3丁目9 富士見埠頭 富士見1号岸壁

装置:塩ビ試験ケースとポリエチレン製ロープと重りからなる

サイズ:  70×35×20㎝、重量7~10㎏

生分解性かご構造評価の写真

総てのダンベルに海藻や貝が付着している。
ppバンドに付着した貝

試作ゴムコンパウンド組成

配合B-9B-10B-11B-12B-13B-14B-15B-16B-17B-18B-19B-20
天然ゴム60部60部60部60部60部60部60部60部60部60部60部60部
合成ゴム40部40部40部40部40部40部40部40部40部40部40部40部
CNF分散樹脂PEPEPEPEPHBHPHBHPHBH分散剤
水分散CNF       00.225部0.225部0.45部0
CNF6部6部12部18部12部12部12部     
着色剤酸化チタン5部酸化チタン5部酸化チタン5部酸化チタン5部酸化チタン5部セルロース粒子5部セルロース粒子5部酸化チタン5部酸化チタン5部酸化チタン5部酸化チタン5部酸化チタン5部
シリカ44部44部44部44部44部44部44部45部45部45部45部45部
加硫剤硫黄硫黄硫黄硫黄硫黄硫黄過酸化物加硫硫黄硫黄硫黄硫黄硫黄

実験結果

7ケ月清水港に浸漬後、軽く水洗した3号ダンベルの重量変化量と率

試作NOB-9B-10B-11B-12B-13B-14B-15B-16B-17B-18B-19B-20
試験前重量 (g)4.284.424.474.594.64.354.34.24.354.444.06
試験後重量 (g)        軽く水洗品4.194.314.444.574.514.2444.154.264.3343.97
重量変化量(g)-0.09-0.11-0.03-0.02-0.09-0.11-0.3-0.05-0.09-0.070-0.09
重量変化率(%)-2.10%-2.50%-0.70%-0.40%-2.00%-2.50%-7.00%-1.20%-2.10%-1.60%0.00%-2.20%

表面に付着した海藻や貝を洗浄した3号ダンベルの重量変化量と率

試作NOB-9B-10B-11B-12B-13B-14B-15B-16B-17B-18B-19B-20

試験後重量 (g) ※        

4.134.224.314.454.434.173.974.014.174.223.793.88
重量変化量(g)-0.15-0.2-0.16-0.14-0.17-0.18-0.33-0.19-0.18-0.18-0.21-0.18
重量変化率 (%)-3.50%-4.50%-3.60%-3.10%-3.70%-4.10%-7.70%-4.50%-4.10%-4.10%-5.30%-4.40%

※キッチンスポンジにて水洗、常温2日間乾燥後。

ダンベルの110℃2時間熱処理後の重量変化

試作NOB-9B-10B-11B-12B-13B-14B-15B-16B-17B-18B-19B-20
試験後重量 (g)※※4.024.164.194.324.34.023.793.974.034.133.713.8
重量変化量(g)-0.11-0.06-0.12-0.13-0.13-0.15-0.18-0.04-0.14-0.09-0.08-0.08
重量変化率 (%)-2.70%-1.40%-2.80%-2.90%-2.90%-3.60%-4.50%-1.00%-3.40%-2.10%-2.10%-2.10%

※※キッチンスポンジにて水洗、常温2日間乾燥後+110℃、2時間乾燥。

室内放置後の吸湿量測定結果

試作NOB-9B-10B-11B-12B-13B-14B-15B-16B-17B-18B-19B-20
試験後重量(g)
4.024.174.24.344.334.023.813.984.034.153.743.8
重量変化量(g)00.010.010.020.0300.020.0100.020.030
吸湿による重量変化率 (%)0.00%0.20%0.20%0.50%0.70%0.00%0.50%0.30%0.00%0.50%0.80%0.00%

常温保存試験試料の110℃2時間熱処理後の重量変化

試作NOB-9-1B-10-1B-11-1B-12-1B-13-1B-14-1B-15-1B-16-1B-17-1B-18-1B-19-1B-20-1
試験後重量 (g)         110℃ 2時間乾燥前4.444.374.544.454.254.294.224.484.634.384.424.47
試験後重量 (g)         110℃ 2時間乾燥後     24時間常温保存後重量4.344.244.394.324.134.164.034.344.54.254.34.35
重量変化量(g)-0.1-0.13-0.15-0.13-0.12-0.13-0.19-0.14-0.13-0.13-0.12-0.12
重量変化率 (%)-2.30%-3.00%-3.30%-2.90%-2.80%-3.00%-4.50%-3.10%-2.80%-3.00%-2.70%-2.70%
常温保存試験試料の110℃2時間熱処理後の試料写真

常温保存試験試料と海水中に7ヶ月浸漬した3号ダンベルの100℃2時間加熱による重量減量比較

試作NOB-9B-10B-11B-12B-13B-14B-15B-16B-17B-18B-19B-20
試験後重量 (g)※4.024.164.194.324.34.023.793.974.034.133.713.8
重量変化量(g)-0.11-0.06-0.12-0.13-0.13-0.15-0.18-0.04-0.14-0.09-0.08-0.08
重量変化率 (%)-2.70%-1.40%-2.80%-2.90%-2.90%-3.60%-4.50%-1.00%-3.40%-2.10%-2.10%-2.10%
試作NOB-9-1B-10-1B-11-1B-12-1B-13-1B-14-1B-15-1B-16-1B-17-1B-18-1B-19-1B-20-1
試験後重量 (g)         110℃ 2時間乾燥前4.444.374.544.454.254.294.224.484.634.384.424.47
試験後重量 (g)         110℃ 2時間乾燥後     24時間常温保存後重量4.344.244.394.324.134.164.034.344.54.254.34.35
重量変化量(g)-0.1-0.13-0.15-0.13-0.12-0.13-0.19-0.14-0.13-0.13-0.12-0.12
重量変化率 (%)-2.30%-3.00%-3.30%-2.90%-2.80%-3.00%-4.50%-3.10%-2.80%-3.00%-2.70%-2.70%
試作NOB-9-1B-10-1B-11-1B-12-1B-13-1B-14-1B-15-1B-16-1B-17-1B-18-1B-19-1B-20-1
海水中7ヶ浸漬試料-2.70%-1.40%-2.80%-2.90%-2.90%-3.60%-4.50%-1.00%-3.40%-2.10%-2.10%-2.10%
常温保存試料-2.30%-3.00%-3.30%-2.90%-2.80%-3.00%-4.50%-3.10%-2.80%-3.00%-2.70%-2.70%
海水試料-常温試料-0.40%1.60%0.50%0.00%-0.10%-0.60%0.00%2.10%-0.60%0.90%0.60%0.60%

海水中に浸漬した試料と常温で保存した試料を、それぞれ100℃で2時間加熱した際の重量減量は、ほぼ同じであることが確認されました。

常温保存試験試料の海水500g常温7日間浸漬、水洗後の常温乾燥品の重量変化

試作NOB-9-1B-10-1B-11-1B-12-1B-13-1B-14-1B-15-1B-16-1B-17-1B-18-1B-19-1B-20-1
試験後重量 (g)※         4.254.344.334.594.274.24.024.514.584.434.394.5
試験後重量 (g)
※※        
4.264.44.344.624.354.274.034.564.624.484.534.41
重量変化量(g)0.010.060.010.030.080.070.010.050.040.050.14-0.09
重量変化率 (%)0.20%1.40%0.20%0.70%1.90%1.70%0.20%1.10%0.90%1.10%3.20%-2.00%

※110℃、2時間乾燥前。

※※110℃、2時間乾燥後、24時間常温保存後重量。

海水中に7日間浸漬した試料は、重量が増加する傾向を示し、溶出は確認されませんでした。

PE処理CNF・PHBH処理CNF・セルロース粒子添加による生分解性率の関係について

PE処理されたCNFの添加量が増加するにつれて、生分解性率が低下する傾向が認められました。

※キッチンスポンジにて水洗、常温2日間乾燥後

試作NOB-10B-11B-12
試験後重量 (g) ※4.224.314.45
重量変化量(g)-0.2-0.16-0.14
重量変化率 (%)-4.50%-3.60%-3.10%
PE処理CNF6部12部18部

PHBH処理されたCNFによる生分解性率の有意な差は認められませんでした。

試作NOB-13
試験後重量 (g)4.43
重量変化量(g)-0.17
重量変化率 (%)-3.7%
PHBH処理CNF12部

CNF粒子を5部添加したB-14では、生分解性率の向上が見られました。

試作NOB-14
試験後重量 (g)※4.17
重量変化量(g)-0.18
重量変化率 (%)-4.1%
PHBH処理CNF+CNF粒子12部+5部

加硫方法を過酸化物加硫に変更したことで、生分解性が大幅に向上しました。

 
試作NOB-15
試験後重量 (g)※3.97
重量変化量(g)-0.33
重量変化率 (%)-7.7%
PHBH処理CNF+CNF粒子12部+5部+過酸化物加硫

CNF添加量が0部~0.45部の試作品B-16~B-20はB-10とほぼ同程度の生分解率であった。

試作NOB-16B-17B-18B-19B-20
試験後重量 (g)※4.014.174.223.793.88
重量変化量(g)-0.19-0.18-0.18-0.21-0.18
重量変化率 (%)-4.5%-4.1%-4.1%-5.3%-4.4%
水分散CNF00.225部0.225部0.45部0

考察

0.1mmタイヤ摩耗粉塵の表面積と3号ダンベルの表面積比較による100%生分解月数の推定

試料重量g厚さcm長さcm幅cm比重重量 g表面積㎠表面積合計㎠3号ダンベル表面積比較
3号ダンベル4.130.2101.831.134.1422.640.7327.33 
試料重量g厚さcm長さcm幅cm比重重量/個 g個数表面積/個表面積合計3号ダンベル表面積比較
0.1mmタイヤ摩耗粉塵4.130.010.010.011.13060705540.000311,906.1569.74

球の体積は、4/3πr³(4/3 × 円周率 × 半径³)で、表面積は4πr²(4 × 円周率 × 半径²)です。

タイヤ摩耗粉塵の海水中での生分解月数

  B-9 B-10 B-11 B-12 B-13 B-14 B-15 B-16 B-17 B-18 B-19 B-20
海水7ケ月間浸漬後の3号ダンベル重量変化量 -0.15 -0.20 -0.16 -0.14 -0.17 -0.18 -0.33 -0.19 -0.18 -0.18 -0.21 -0.18
タイヤ摩耗粉塵が0.1mm粒子の表面積換算倍数 69.7 69.7 69.7 69.7 69.7 69.7 69.7 69.7 69.7 69.7 69.7 69.7
3号ダンベル試料の100%生分解する月数 -199.7 -154.7 -195.6 -229.5 -189.4 -169.2 -91.2 -154.7 -169.2 -171.1 -133.3 -157.9
表面積換算での100%生分解する月数推定値 -2.9 -2.2 -2.8 -3.3 -2.7 -2.4 -1.3 -2.2 -2.4 -2.5 -1.9 -2.3
加硫剤 硫黄 硫黄 硫黄 硫黄 硫黄 硫黄 過酸化物加硫 硫黄 硫黄 硫黄 硫黄 硫黄
CNF 処理剤 PE PE PE PE BHPH BHPH BHPH          
着色剤 酸化チタン 酸化チタン 酸化チタン 酸化チタン 酸化チタン セルロース粒子 セルロース粒子 酸化チタン 酸化チタン 酸化チタン 酸化チタン 酸化チタン
タイヤ摩耗粉塵

ポイント

① B-9~B-20の試料を海洋中に7か月間浸漬した後、付着した海藻や貝殻を除去した3号ダンベルの重量変化率は、-3.1%から-7.7%でした。
② 海水中に7か月間浸漬したダンベルを110℃で2時間乾燥したところ、-1.00%~-4.5%の重量減少が見られました。これは、ゴム内部の揮発成分および水分による減量と考えられます。
③ 海水中に浸漬後、110℃で2時間乾燥させたダンベルを室内に放置したところ、吸湿による重量増加率は0%~0.8%であり、乾燥処理による減量と比較して小さな値でした。
④ 海水中に浸漬していないゴムシートを110℃で2時間乾燥処理したところ、-2.3%~-4.5%の重量変化が認められました。これは海水中に浸漬した試料とほぼ同程度であり、海水中では揮発成分が失われていないと考えられます。
⑤ 常温保存していたゴム試料を塩水に7日間浸漬し、その後常温で乾燥した場合、0%~0.8%の重量増加が確認されました。この結果から、塩水中に溶出する成分が存在しないことがわかりました。
⑥ 以上の結果から、今回海洋に7か月間浸漬した3号ダンベルの減量は、生分解によるものと推定されます。
⑦ 天然ゴム60部、合成ゴム40部に酸化チタンを着色剤として使用した3号ダンベル標準試料は、7か月間で4.5%の生分解が見られました。
⑧ PEに分散させたCNFを6部・12部・18部添加した3号ダンベルでは、CNFの添加量が増えるにつれて生分解性が低下する傾向が見られました。
⑨ PHBHに分散させたCNFを12部添加したB-13の生分解率は、PE分散CNF品であるB-11と同等であり、生分解性樹脂PHBHの効果は確認されませんでした。
⑩ 着色剤として酸化チタンをセルロース粒子に変更した試作B-14では、生分解率が約10%向上しました。
⑪ 過酸化物加硫によるB-15の生分解率は-7.7%であり、他の試作品と比較してやや高い数値を示しました。
⑫ 生分解率が表面積に依存すると推定されるため、3号ダンベルの表面積とタイヤ摩耗粉塵(直径0.1mm)の表面積を比較したところ、摩耗粉塵はダンベルの約70倍の表面積を持つことがわかりました。
⑬ B-10の標準配合ゴム試料が0.1mmのタイヤ摩耗粉塵となった場合、2.2か月で100%分解すると推定されます。
⑭ B-15の過酸化物加硫ゴム試料が0.1mmのタイヤ摩耗粉塵となった場合、1.3か月で100%分解すると推定されます。

謝辞

当研究事業は、静岡市海洋産業クラスター協議会にご協力いただきました。誠にありがとうございました。